"御庄榛人は殺された" と。
口々に皆、
"榊亮に"
そう言っていた。
けれど、まりあちゃんも漸さんも利人さんも、素知らぬ顔で淡々としていた。
御手洗に1人で行って、御手洗を出た時、男の人が外で立っていた。
あたしの事は見ていなかったけど、不思議とあたしに用があるのだと感じた。
「おじさん、何か用?」
男の人は、榛人と同じぐらいの年齢に見えた。
その人はあたしの前に来て、目線を合わせるように膝を曲げた。
「藍、君は泣かないんだね」
あたしの名前を知っていた。
あたしは、その人の頬に触れた。
「おじさんは、泣いたんだね。ありがとう。」
あたしの言葉に、眉間に皺を寄せ、目を赤くした。
「俺の名前は、榊亮(さかきりょう)」
あたしはその時、この人じゃないと確信した。
「俺を恨んでくれ、藍」
きっと、榛人を助けられなかった人なのだと思った。
「藍が大人になったら、また会おう」
自分を恨んで、生きてくれ。
そんな叫びに聞こえた。
「うん。おじさんも、元気で。」
その時、初めてあたしは涙を流した。

