i -アイ-





「ありがとう。気をつけて」


あっさり帰してくれるんだな。


「尾行はもう無しで頼みますよ」


「ああ、分かってる」


こんな会話も何の意味もないのに。

息を吐くように、本当か嘘かも分からない言葉を連ねる。



玄関で靴を履いていれば、ガチャ、と扉が開く。


フードを目深に被る男。



「おはよう、幹城」


あたしは幹城の肩をポンポンと叩き、クスリと笑って外に出る。



もっとあたしについて悩めばいい。

それがただの時間稼ぎでしかないとしても、REIGNが無事で、上が動きやすいならそれでいい。



『A : 朝食、美味しかった。ありがとう。またお願いしてもいいかい?』



名前をそのまま登録するのは何かと物騒だから、短絡的にAにした。


あたしは人の名前に頓着がないらしい。

分かりやすい名前自分にもつけちゃったしね。



『久遠藍人 : よく眠れましたか?不眠気味なんですね。俺でよければいつでも』



あの人はうなされながら寝ていた。


眠る前から震えるなんて異常だ。

もう、精神まで蝕まれているのかもしれない。

尋常じゃない緊張感の中で毎日を過ごして、あんなに大きな存在の大人が、まるで子供のように震えて眠るなんて。