「榛人も、君みたいだったな」
懐かしそうに呟くその言葉に、碧さんを見つめる。
「掴みどころがなくて演技も上手くて。何を考えているか分からない。誰よりも上手(うわて)だった。……君は俺を見ても動じない。俺を見透かしているようでタチが悪い」
揺らぐ碧さんの瞳。
あたしはこの人を知らない。
でも、榛人が信用していた人間なら。
「藍人、手を出さないと約束するから、今日は一緒に眠ってくれないか」
消えそう。
そう思った。
まるで、榛人が死んだあの日から、この人にとっては時が止まっているんじゃないかと感じるほどに。
これが演技だったら、凄いな。
「それは、ひとつ借りになりますけど、いいんですか?」
クスッと笑えば、キョトンとした顔をして呆れたように碧さんは笑った。
「どう返せばいいかな」
「冗談ですよ。これまでの食事代も全て持っていただいているんですから、それぐらいはしますよ」
高層マンションのほぼテッペン。
見晴らしのいい部屋が碧さんの家らしい。
「綺麗ですね」
「もう見なれてしまったよ」
「お金持ちは違いますね」
ここは完全に碧さんのテリトリー。
馬鹿みたいに安心してここに居るわけじゃない。

