i -アイ-





「あの、えっと、昨日のお礼にお茶とか、どうかな」



潤んだ目であたしを見上げる先輩。


メッセージカードには、椎名茉結(しいなまゆ)と書いてあった。


椎名、か。そこそこ多い名前だけど、椎名茉結は確かヴァイオリニストだった気が。


でも秀才枠じゃない。

父親が世界的に有名な指揮者で、母親がピアニスト。

金持ちは金持ち。



「いいよ、お礼なんか。たまたま通っただけだし」


変に気を持たせるのは良くない。

悲しそうな顔をするけど、でも、気を持たせて後で突き放す方が傷付ける。



「じゃあ、今日第二音楽室に放課後来てくれない?」



……まだ学校の中なら安全か。



「……いいよ。第二ね」


そう返事をすれば満足そうに教室を出ていく先輩。


腕をクイッと引っ張るのは滝谷。



「熱烈だったな」



無視だ無視。



「おいこら無視すんな。なんだよ、助けたとか?」


察しがいいな。



「まあな」



「なんでそんなテンション低いんだよ。あれって椎名先輩だろ?可愛いし結構人気な人だぞ」


「じゃあお前が行く?放課後」


「はあ?」



「冗談だよ。どれだけ可愛くても、好きな子じゃないなら必要以上に優しくするのは逆に失礼だよ」