i -アイ-






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「あ?髪乾かしてねえのか」


昔のことを考えていたら、いつの間にか利人さんは上がってきていた。



「あ、忘れてた」



「ったく。おら、ここ座れ」



そう言われてソファの下に座る。

脚であたしを挟むようにソファに座った利人さんがあたしの髪を乾かしてくれる。



利人さんは今年で35になるのに、外泊する時は出張の時だけ。


ずっとあたしのそばに居てくれてる。


まりあちゃんが亡くなって、あたしが1人になった日からずっと。




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「自分の体調ぐらい管理できるようになってから好きに行動しろ」


刺されそうになった日から、やっと風邪が治り元気になった日、利人さんに説教を食らった。


「準備しろ。病院行くぞ」


「え?もう治ったのに?」



その時の利人さんの表情を今でも覚えてる。



「義姉貴のとこだ」



真剣にあたしを見つめるその瞳。


逃げたくなった。


もう誰も失いたくないのに。



「義姉貴は、癌だ。ステージ4」



ナイフで刺されるより痛かった。



何故、その段階に行くまであたしに知らせてくれなかったのか。



それが、まりあちゃんの厳しさだということは、直ぐに理解した。