素直になりたい。

「直禾」


千咲ちゃんがさらっと呼び捨てにしてきた。


「直禾なら出来るよ。絶対、大丈夫。自分のこともワタシたちのことも、彼のことも......信じてあげて」

「千咲ちゃん...」


千咲ちゃんの手が肩に乗り、私をくるっと方向転換させた。

目の前には長い廊下。

いやいや、茨の道が見える。

それでも、

私は行くと決めた。

日本に産まれ、

日本に育った、

大和撫子の、

鷲尾直禾に、

二言はない。


「さぁ、行って。ちなみにワタシのことは、千咲って呼んでっ!」


私は背中を思いっきり叩かれ、前につんのめったけど、走り出した。


「千咲っ、ありがとう!私、頑張る!」


私は走りながら叫んだ。

息がものすごく上がる。


「頑張れっ、直禾!」

「がんば~、直禾っ!」


私は声援を背中に一心に受け、

最後の最後、

特待生としての規律ある態度から解き放たれ、

校則を完全に破りながら、

校舎内を駆け抜けた。

そして、

前期は風紀委員だったことを

今更ながら思い出した。