素直になりたい。

「おはよ」


散々聞かされた声だ。


「おはよ、新大」

「おはよう、新大くん」

「おっはよう、新大くんっ」


皆が挨拶する中、私はどういう顔をしたら良いか分からず振り返ることが出来ない。

でも、ここまで来てしまったんだし、帰るわけにはいかない。

なんとか平静を装わないと。

そう思い、振り返ろうとした、

その時だった。


「わーしおっ」

「うわっ!」


頭に被っていたニット帽をひょいっと取られた。

私はジャンプして帽子に手を伸ばす。


「ちょっと、返してよ!」


しかし、一向に返さない櫻庭。

ムカつくくらい眩しい笑顔。

何度見ても、胸がムラムラする。

私はジャンプするのをやめた。

眩しすぎて見られなかった。


「直禾ちゃん、大丈夫?顔、赤いけど」


千咲ちゃんっ!

余計なこと言わないで!

きっと睨んでいると、ぽんっと頭に帽子が乗った。


「真っ赤になるくらい元気で良かった」

「は?な、ななっ、何言ってるの!わ、私は寒くてこうなってるだけで、そんな...」


私が1人であわあわしていると、櫻庭が勝手に私の荷物をガラガラと引き始めた。


「とろいやつはおいてくぞ~」

「ちょ、ちょっと!」


私は必死に追いかけた。


でも、良かった...。

櫻庭が櫻庭で良かった...。

笑ってくれて、良かった...。