「先生」

「待ってましたよ」



先生の待つ部屋に案内され中に入れば先生は優しく微笑んだ。


上手くできたかは分からないけど、あたしも微笑み返した。


先生の向かい側のソファーに腰を下ろすと女の人が紅茶を出してくれた。



「これ…」

「好きなんですよね?ピーチティー」

「どうしてそれを」



先生には教えたことないのに。



「彼から聞いたんですよ」

「一真から?」




先生は一真くんとか、一真の話をしたときは親しいような感じで喋っていたけどどういう関係なんだろう。



「実は一真くんよく俺のところに来ていたんだ」

「え?」



先生の話によると週に3回は先生に会いに来ていたらしい。


カウンセリング、と言うより相談とかだったらしいけど。



「君の話をよくしていた」

「あたしの、話…」

「そう。ところで話を聞きに来たんだろう?そろそろ本題に行こうか」



そうだ、あたしはどうして一真が自分の死を悟っていたか知りに来たんだ。




「まず、君が死にたいと言いに来なくてよかったよ」




連絡が来たときヒヤッとしたと先生は話してくれた。

「で、一真くんだけど」と話し始めた先生の言葉に耳を傾けた。




「一真くんの死は君の病気と関係しているんだ」

「…え?」



病気と関係しているってどうして。



「前に治す方法はないのかって訊いたことがあったよね」

「はい。その方法はとても残酷な方法だと」

「そう、治ったとしても誰も耐えられない治し方なんだ」




その言葉を聞いただけで背筋に冷たいものが走った。



「彼もね、治し方を俺に訊きに来たよ」

「……っ」

「だけど俺は教えなかった…最初は」



最初はってことは…きっと一真がしつこく聞いて、先生が折れ教えたってところなんだろう。



「一真くんは諦めなくてさ、俺が折れて教えたんだ」



やっぱり。一真は変なところで意地っ張りだから。



「そしたら彼、絶望的な顔をしたよ」

「……」

「当然だよ。俺でも絶望する」

「先生、その…治る方法って」

「……」

「残酷って言ってるけど、あたしの身には何ともなくて…酷い頭痛がしたくらいだし、残酷とは___」

「残酷だよ。言ったはずだよ、とても残酷な治し方だって」




体が凍ったように固まってしまった、2つの漆黒の瞳によって。


先生の瞳に捉えられたあたしは目を逸らすことができなかった。


余りにも冷たくて、悲しみを帯びていて___怖い。




「忘愛症候群という病気は愛する人を忘れ続ける病気」




その病気を治す残酷な方法は…



「その愛する人の死」