日本人じゃそんな恥ずかしいセリフ言えないのに、何の迷いもなくサラリと言ってのけた一真くん。

恥ずかしくないのと言いたくなる。



「今日まだ言ってなかったよね?」

「…言われてない、けど」



言われてない方がよかったかも。
下向いてないと照れてるのがバレる。



「愛?気分悪い…?」



急に下を向いたもんだから、気分が悪いと思われてしまった彼に「だ、だだ大丈夫!うん、平気!」と誤魔化した。


誤魔化したと言えるような誤魔化し方ではなかったけど。



「あ、シロクマ!」



大好きなシロクマの水槽を見つけて駆け寄り、一真くんに顔が見えないようにシロクマに魅入っているフリをした。


突然走り出したあたしに追いついた一真くんは「まったく愛は」と愛しい者のことを思うような声で言って笑った。


嫌なはずなのに、嫌いなはずなのに…あたしの心は頭とは反対に一真くんにドキドキしてて、キュンと締め付けられる。



これは、何…?



「愛」と呼ばれて高鳴る鼓動。


笑いかけられてキュンと締め付けられる胸。


あたしの病気のことを理解し、触れず離れず一定の距離を保つ彼の優しさ。


この感情の名前は何と言うのだろう。


分からないものに囚われて戸惑う気持ち、焦る気持ち、恐怖する気持ち。



このままいけば答えは出るの?
それは…分からない。


出ないかもしれないし、もしかしたらまた忘れてしまってゼロからになっちゃうかもしれない。



___…あたしは初めて自分の病気に嫌気がさした。

___殺意がわいた。




「愛は本当シロクマが好きだよね」

「え?なんで知って」

「これでも一応彼氏だったから」



舐めないでいただきたい、と続けた彼に胸が痛んだ。


“彼氏だった”それは過去形で…彼氏だよって言いたいはずなのに、そう言わせてあげてないのは紛れもないあたし自身。


あたしはまだ一真くんのことを苦しめ続けているんだ。



「ごめんね…」

「愛、何か言った?」

「ううん!シロクマっていつ見ても可愛いよね!」

「そうだね」




嘘をついてつかれて。

誤魔化して誤魔化され。

愛さず愛されて。

傷つけて…傷つけられて。


あたしは最低な女。


___そんな女でも。



「てか、いつもそう言ってる」



一真くんは笑ってる。