そう言えば、家の中に入ってあたしの名前を呼んだ人と目が合った。



「あなた、誰?」



だってそこには見ず知らずのイケメンが立っていたから。


朝から目の保養にはなったけど、あたしこの人のこと知らない。

誰だろう、お母さんは知ってるの?



ていうかあたしの学校の男子制服、ということはこのイケメンも同じ学校ということ。


でもこんなカッコいい人学校で見たことないけどなぁ。




「愛…あんた」




お母さんが絞り出したような声であたしを呼んだとき、ようやくここの空気がおかしいことに気づいた。


張りつめてて緊張のようなものが走ってる。


お母さんとイケメンの顔を交互に見ると2人は同じような、何かに恐れているような顔をしている。




「ねぇ何この空気」




問えばお母さんは逆に訊いてきた。


「この男の子のこと分かる?」


そうイケメンを指差して。



「ねぇ、だから誰?あたしの知り合いにこんなイケメンいないよ?」



今度こそ張りつめていた空気に亀裂が入ったような気がした。




「愛、俺のこと覚えてないの?」

「え?…ごめんなさい、分からない」

「嘘だろ……」




え…何?あたしの今の発言がマズいの?

このイケメンが今にも泣きそうな顔をしているのはあたしのせいなの?

なんで?どうして?



「一真君っ、ごめんなさいっ」


勢いよく彼に頭を下げたお母さんに戸惑った。
このイケメンが一真君なの?



「大丈夫ですよ、おばさん」

「ごめんなさいっ…どうしてまた記憶がっ」



お母さんは何で一真君って男の子に謝っているの?

お母さんは今すぐ泣きそうな顔をしている、どうして?


この状況が上手く呑み込めない、付いていけない。

そんなとき「どうした?」とスーツ姿のお父さんがリビングから出てきたからあたしは駆け寄ってこの状況をどうにかしてもらおうとした。



「お父さん、あたしがあの一真君って人知らないって言ったらお母さんが謝りだして…」

「え…」

「どうにかしてよ。あ!お兄ちゃんも聞いてよ」




お兄ちゃんがリビングから顔を出したからこの状況のことを言おうと駆け寄ったら、「愛ッ」と怒るときのような声であたしを呼んだお父さん。

肩が跳ねあがり、恐る恐る振り返った。



「お父さん…?」



そこには叱る時の表情をしたお父さんがいて、困惑した。

あたし今、怒られるようなことしてない。


一真君って人を知らなくて、お母さんが謝り続けてるからどうにかしてって言っただけじゃん。

お父さんは眉間に皺を寄せてあたしを睨みつけるように見ている。




「今日は学校には行かなくていい。病院へ行く」




「お母さんも行くぞ。一真君も行くか?」とお父さんはお母さんだけでなく一真君という人にも問いかけた。


お父さんも一真君を知ってる。

もしかしてお兄ちゃんも知ってるの?そう思ってお兄ちゃんを見れば…




「知らねぇのはお前だけだ」