ある日の週末、と言うか記憶を無くしてからすぐの週末。

あたしはまだ一真のことを思い出せないでいた。



「愛、どこか行くか?」



そして何故か一真があたしの部屋に上がり込んで、さも自分の家かのようにくつろいでいる。


今までこれが当たり前だったのかな。

記憶がないから分からないけど、一言言っておきたいことがある。


それはソワソワドキドキが止まらないということ。



1年以上付き合っていたとはいえど、今のあたしからしてみれば初対面に等しい。




「デートってこと…?」

「当たり前」




だからこんなカッコいい人とデートだなんてとんでもない、ドキドキしすぎて口から心臓出ると思う。


あれ、口から心臓出るってこういう風に使うんだっけ?


言葉の使い方も忘れるって相当ヤバい。
さすがにそれはヤバい。



「なぁ、嫌?」

「うっ…」



犬のようなウルウルした瞳、困り眉プラス上目遣いをしてきた一真にノックアウト。



「す、少しでも一真のこと知るためのデート…だから」




デートすることを許してしまった。

犬みたいに可愛くて悲しそうな顔をして、見捨てられないあたしの性格をいいことにハメられた!


一真と過ごしてから少しずつ分かってくる、あたしと本当に付き合っていたことが。




一真はあたしのことを今みたいによく知っている。

一真とあたしの交際は親も周りも公認だってこと。

一真の家にも同じ『AI & KAZUMA memory』と書かれたアルバムがあるのを写真で見せてもらった。




あたしと一真が付き合っているという証拠が次から次へと出てくる。


このまま一真のこと何も知らずに過ごすのは嫌だ、だから一真のことが知りたい。



___もう一度好きになりたいと思った。




「なぁ愛」

「な、何?」



どこか違う…オーラが変わった一真のせいで緊張して背筋がピンと伸びる。



「また、好きになってもらうから」

「何、言ってんの…」



すでにもうドキドキさせられっぱなしなんだよ?

そんなこと知らないでしょ。
また好きになるのなんて時間の問題だから。




「ふっ、出会ったころみてー」

「…出会った時って、どうだったの?」

「んー…ツンデレ?」

「あたしが?」

「そう」



それはないって、何言ってんの。



「ないない。有り得ないから」



あたしのどこがツンデレなの?



「しかも最初、全然相手にしてもらえなかったし振り向いてくれるのに時間かかった」




へぇ…そうだったんだ、と自分のことなのにまるで他人事みたい。

でも今回は案外早く落とせるかもね。



「ていうか、2回目の初恋?」



2回目の初恋って何それ。
あたしは思わず噴き出した。