「あのときは、俺も医者になるっていう決められた将来を信じて疑わなくて、バカみたいに誘ってくる領のこと、心底うざかったよ」

「わかる、私もそう」

「でも、あいつのこと、信じて損はなかったな」



うん、それも、わかるよ。

無口な浩平がこんなにも表情を豊かにして話しているところ、初めて見た。

領のことも、怜のことも、誰より信頼して大切にしている。はるとうたたねのメンバーを、音楽を、誇りに思ってる。浩平の表情からも、言葉からも、全部伝わるよ。



「てか、さ」

「うん?」

「綾乃はすごいな」

「え……」

「俺、どんだけ勉強しても、1位だけは取れなかったもんな。まあ、俺がバイトやバンドやってる時間も勉強してるんだから、当たり前なのかもしれないけど」

「それは……」

「並大抵の努力で出来ることじゃない。2位の俺が1番よくわかってるよ。綾乃は、本当に頑張ってる」




もっと、もっと頑張らなきゃって。私の努力が足りていないって、才能がないって、ずっと自分ばかりを責めてきたけれど。

本当は、こんな自分のこと、自分が1番に認めてあげなくちゃいけなかったのかもしれない。

浩平だって。学年2位をとり続ける勉強量は並大抵の努力じゃ敵わないこと、私がいちばんよくわかってる。それに、浩平はそれだけじゃない。毎日ドラムの練習をして、バンドを続けるためにバイトをして、その間を縫って勉強も。


……勉強だけしている私なんかより、ずっと、ずっとすごいよ。



「浩平も、だよ」

「え?」

「誰よりも努力してる、その姿勢に、きっとみんな惹かれてるんだよ」




私も、怜も、領も。浩平がメンバーを信頼しているように、私たちも浩平のこと、大切なんだ。




「……綾乃はいい奴だよね」

「いい奴?」

「うん、……俺、第三者にはなりたくない、かも」

「第三者?」

「こっちの話」




言葉の真意がわからなくてきょとんと首を傾げたけれど、浩平はやさしく微笑むだけだった。