「……」

「浩平はお風呂4番目だったね」

「うん、領って風呂長いから、最悪」


そう言いながら顔をしかめたので、思わずクスッと笑ってしまう。



「……笑うところ?」

「ううん、仲良いんだなって」

「別に、普通」

「お互い信用してるの、見てればわかるよ」

「……言うようになったね、綾乃」



言うようになったね、とはどういうことなんだろう。無口の浩平に比べたら全然なんだけどな。



「本当のことだよ!」

「綾乃、よく笑うようになったよね」

「え、」



よく笑うようになった、なんて。言われるまで気づかなかった。

そういえば、私はもっと世界に対して捻くれていて、もっと笑わなかったかもしれない。



「……領のおかげ?」

「ううん、3人のおかげ」



わたしの言葉に、浩平が微笑む。浩平だって、滅多に笑うことないのに。わたしはその表情が嬉しくて、つられて笑う。

そんな笑顔に気を許したのか、私はこのもやもやを浩平に話してみようと思った。



「あのさ、領って誰が好きなのかな」



それを聞くのはなんだか恥ずかしくて、両肘を机について、顎を掌に傾ける。シャワーの音はずっと聴こえているから、領はまだ、お風呂に入ってる。



「気になるの?」

「気になるって言うかね、今日、聞かれたの。『俺の好きな人誰だと思う』って。その時私、知りたいって思ったんだよね。だけど、知るのが怖いような気もしてて……」



話していて気がついた。
このセリフ、前にお父さんが帰ってきたときについてたテレビでやっていた、学園恋愛物の連ドラ主人公と同じな気がする。

いや、でも、私には恋愛なんて遠い未来の話なんだけれど。



「……それって、さ」



浩平の声が突然マジメになった。なんとなく気恥ずかしくて逸らしていた視線を、そっとあげる。



「……?」



浩平は、その言葉の続きを言おうとはしなかった。

肘をついたまま、私の方へは視線を向けない。