絡み合った視線がほどけないのは、領が私から目を逸らしてくれないから。そして、私が領から目を離せないから。
「キョーミ、なんて……」
……ある? ……ない?
領の好きな人を、私は知りたいと思う。
でも、それと同様に、知るのが怖いと思う自分もいた。聞きたくない。領の好きな人。でも、知りたい。
矛盾した気持ち。本を読んでも、現代文や古典、倫理の教科書にだって載っていなかった。自分の気持ちさえまともに言語化することさえ出来ない。
情けない。
「……ある、けど……いい」
「……」
スッと視線が解ける。
領が横を向いたから。私を視界から離したんだ。私はつられて下を向く。見ていられない、と思ったから。
「……まあ、まだまだこれからだし」
領がつぶやくようにそう言って、「ヨイショ」と膝をついて立ち上がった。つられて私も上を向く。
「昼飯にしよ」
顔を上げるとそこには、いつもみたいに屈託なく笑う領の姿があった。