なんて言葉を返されるのか、怖くて顔があげられない私はまだまだ弱いと思う。


「……勉強の妨げになるんじゃないの?」

 
 冷たく、ひどく冷静な口調でそう言って、お母さんは再び夕飯の支度を始めた。唇をぎゅっと嚙みしめる。

 ダメだ。ここで終わったらいつもと同じじゃないか。諦めたら、ダメなんだ。


" 音が、曲が、音楽が。
誰かの心に伝える事だってできる "


「どうしても……やりたいの……!」


まっすぐまっすぐ前を向いて。今にも溢れそうな涙をぐっとこらえた。自分がこんなことを言うなんて、自分でも驚くくらいだ。

でも、高城領が、後ろで背中を押してくれている気がしたの。

 声を荒げた私にお母さんは一瞬こっちを見た。いつも無表情のお母さんが、少しだけ驚いた顔をして。


「……綾乃がそんなことを言うなんて珍しいわね。……好きなようにしなさい。けれど、勉強の邪魔になるようだったらやめなさいね」


いつもみたいにつめたい口調だった。でも、お母さんがわたしの名前を呼んだ。アヤノ。なんだかそれは、とっても特別名前に思えて。


「……ありがとう、お母さん……っ」


それしか言えなかった。今はまだ、それが私の精一杯だった。

 溢れそうになる涙をぐっとこらえてお母さんに背中を向けた。バタンと扉をしめて、廊下へ出る。急いで自分の部屋へかけあがりながら、高鳴る胸の鼓動が騒がしい。溢れ出そうなこの感情を、私はどうしたらいいだろう。