高城領とメアドを交換した。
友達なんかいなかったし、親と連絡をとるのもほぼ業務連絡のみだから、私のケータイはいまだにガラケーだ。高城領もちょっとビックリしてた。
カバンのポケットにしまってあったケータイは、ほとんど新品の状態。連絡先を登録するのも久々のことで戸惑ってしまって恥ずかしい。
「じゃあ、明日バンドのメンバー紹介すっから!放課後、明けといてなー!」
「うん、わかった」
校門を出てそんな会話をしたあと、私たちはそれぞれ反対方向へ歩き出した。送るって言って聞かない高城領には、ちょっと1人で考えたいからとなるべく言葉を選んだ。断るっていうのも意外と気を遣うんだ。
ひとりで歩くいつもの帰り道だけれど、吸う空気はなんだか違う。
今日は、本当にいろんなことがあった。大袈裟かもしれないけれど、世界が変わっていくのを感じたっていうのかな。こんなこと、今時映画のヒロインだって言いやしないだろうけれど。
多分きっと、思い返したときに今日という日がトクベツな日になるんだろう。何故だかそんな予感がしてるんだ。
……でも、まだ一つ残ってることがある。それは私にとって最大の難関だ。
「……よし」
一度立ち止まって深呼吸をしたあと、覚悟を決めて再び歩き出す。吸い込んだ空気は、やっぱりいつもと違う味がした。