───20XX年、東京。


道行く自動車のエンジン音と溢れかえる人々の騒音がやまない渋谷スクランブル交差点にて。一際大きなビル広告の映像が4人組バンドに切り替わる。


街を流れるその音楽に、ふと足を止めた。深くかぶっている帽子を少しだけ上にずらし、そのビル広告を目にとめる。




「ねえ、この曲知ってる?」
「ああ、あのバンドの?」
「知ってる知ってる!」
「あたし超好き! 確か、オリコン1位だよね?」
「最近人気だよねー、ライブ行ってみたい」
「バンド名なんだっけ?」
「えっと確か───」




流れる映像と音楽に、周りの数人も同じように足を止めてビルを見上げる。その音は曲は街中を魅了し、やがて日本中に衝撃をあたえることとなる。……そんな気がしている。



ふと、震えたケータイを見ると一件の新着メッセージ。領とマネージャーから鬼のようにメッセージが届いている。大学が長引いて、本番前のセッティングに遅れてしまっているんだった。こんなところで足を止めている場合じゃない。


帽子を元に戻して再び歩き出すと、さっき近くで話していた女子高生の会話の続きが耳に入った。





「───はるとうたたねじゃない? ひらがなで!」