「座りなさい」


こんな日でも人通りの少ない校舎裏のベンチに腰かけた。途中、息が切れている私を見かねて冷たいお茶のペットボトルを買ってくれた。

それを握りしめて、お母さんの横に並ぶ。


遠くで、にがやかな文化祭の音が聞こえる。ここだけ、しんと静まりかえっている。家以外で顔を合わせることなんて何年ぶりだろう。


重たい空気に、負けたくない。




「……あのね」



少しの沈黙、息をしっかりと整えた後、口を開いたのは私だった。

言わなくちゃいけない。言いたかったこと。言えなかったこと。



───『頑張れ』


領の言葉が浮かんできた。私の背中を押したときの優しい手のぬくもり。それを見守っていた浩平と怜の強い眼差し。

わたし、もう、一人じゃない。