連れて行かれたのは音楽準備室。自前の大きな鏡にたくさんのメイク道具、髪を巻くコテにヘアオイル。怜の美意識の高さには毎回驚く。本番前はいつもこれだ。

鏡の前に座らされて髪を巻いてもらうと、自分が自分じゃないみたいに思えるんだ。

いつもはワンピースに着替えるけれど、今日は制服。校則違反だけれどスカートは限界まで短くして、胸元のボタンは2つあけた。リボンはゆるめに。これも怜のセッティング。



「本番まで、あと何時間?」

「ん、1時間半」

「え、ホントに?!」

「綾乃がもたもたしてっからー」

「う、ゴメン」



そんな、なんて思いながら、私の心臓はうるさい。最低でも30分前には本番裏に集まらなきゃいけない。その30分前には4人でチューニングを兼ねた最終確認だ。


歌詞、間違えずに歌える? 音程外さずに歌える? 周りの音、ちゃんと聞ける? 失敗しない? 大丈夫?


───"大丈夫″


どこかから、声がしたような気がした。



「今……声しなかった?」

「ん? してないけど?」



じゃあ、今の声は……きっと、私の心の声だ。

私の心の中が、今までの経験や練習が、大丈夫だ、って言ってるんだ。


ふう、とひとつ大きく息を吸い込む。



できる、やれる、大丈夫だ。