文化祭前日、スタジオ練習と本番での体育館練習を終えると、もう時刻は20時をまわっていた。他の部活動や出し物をするグループも残っていて、その中にはいくつかバンドもあった。



「ついに明日、緊張する……」

「これだけ練習したんだからダイジョーブ! 綾乃、最初よりすっげえ上手くなったし!」




帰り道、怜が気を利かせたのか浩平と帰ると言い張ったので、領とふたりで歩く。暗い夜の道、月に照らされてうっすら2人の影が映る。



「ありがとう、嬉しい、」

「うん、お母さんには明日来て欲しいって言えた?」

「一応ね、部活の発表するから来て欲しいとは伝えたんだけど……」

「来てくれるといいね、お母さん」

「うん、」



一週間前くらい。毎日帰りが遅い私に、お母さんから『部活、忙しいの?』と問いかけられた。

普段ほとんど会話をしない中で、気にしてくれただけでも心臓が痛くなる。勇気を出して文化祭のチラシを渡して、『見に来て欲しい』ときちんと伝えた。

お母さんは一瞬黙って、『……あけとくわ』とひとこと言ってくれた。



「領が誘ってくれなかったら、こんなこともなかっただろうな、」

「全部綾乃が頑張ってるからだよ」

「ううん、本当に、奇跡みたいなことなんだ、今のこの状況も、」

「バーカ、綾乃。奇跡なんかじゃないよ。おれ、最初に綾乃の歌声を聞いたときから、『ああこの子、仲間になる子だ』って思ってたよ」

「何それ、運命ってこと?」

「そう。きっと必然ってこと」



領の、この白い歯を見せて笑う表情が好きだ。たぶん、誰よりもずっと。



───明日は本番、文化祭。