「綾乃、そこちょっと音上がりしすぎ」

「ごめん、歌ってるとつい……」

「浩平は序盤のリズムが速くなりがちだからもっと性格にテンポとれるよう練習して、怜はのってくると周りの音聞こえなくなってる」

「ゴメン、気をつける」

「領も割と勝手に飛ばすから気をつけて」



みんな、今までないくらい真剣に合わせていく。合わないところは全部言い合って、その曲にベストな演奏方法を模索していく。



「ここはあくまで綾乃メインだから、目立たないで」

「ギターソロもうちょい派手でもいいと思う」

「ピッチ合ってない、チューニングして」

「指まわってないよそこ」

「もう一回合わすよ!」



何度も、何度も繰り返して、楽譜はメモ書きだらけで黒くなっていく。私も夏休みよりは長く歌えるようになってきたけれど、一日に気持ちよく歌える時間は3時間未満。それもこまめに休憩を挟みながらだ。

意見を言い合えること、ダメなところもいいところも一緒に乗り越えていけること、きっとこれが仲間っていうやつなんだろう。


───そして私は、その仲間の一員にいる。


今までじゃ、考えられなかった。




「──今のいいじゃん、合ってる」

「うん、サイコーに気持ちいい」



そうだ、思えば、私がここにいること、この人たちの中で一緒に音楽を作っていること。


「綾乃、高音の伸びもよくなったし低音もしっかり出てる」

「あー、本番楽しみ、」

「もう一回いこ!」



それこそ、奇跡、なんだよ。