「ごめん、綾乃、おれ、ちょっと焦ってたのかも」
「焦る?」
「……囲うようなことしてたかも、綾乃が、どっかいっちゃうんじゃないか、ってさ」
「それは、どういう、」
「b-stationのこと。綾乃、どう思ってる?」
見上げると、領が今までにないくらい真剣な表情でこちらを射抜いていた。そうだ、わたし、まだ返事をしていない。
今後、はるとうたたねとして活動を続けていくのかどうか。
「怜と浩平にもちゃんと話した。ふたりは今後もバンドをやってく覚悟を持ってくれてる」
「……うん」
「───綾乃はどう思ってる?」
あのとき聞かれた言葉と同じ。まっすぐに私を射貫く目は真剣に、だけどもやさしく、すべてを私に委ねている。
わたしは。
最初のステージを終えて、抜けきらない感覚を忘れられないまま、何度も違う会場で違うステージに立った。夏休みの間、できるだけ本番を迎えた。染み渡っていく感覚、覚えていく感情、とまることのない期待。
その度に、感じたことのない高揚感と気持ちよさ、ステージの中心から見る景色に何度も泣きそうになった。
───それは、世界でいちばんきれいな光景。