「綾乃、ここもしかして音低すぎる? 歌いにくそうにしてるけど」

「ああ、うんそこ高低差が激しいから音程取るの難しくて……」

「ちょっと音あげようか? 旋律がずれると裏も困るし」

「うーん、確かに、そっちのがいいかも……」



そう?、と言いながら領が楽譜に音を落としていく。浩平と怜はリズムを確認中だ。

有名バンド曲のコピーをすることが多いけれど、オリジナル曲も何曲か制作する。最初に領がデジタルで音源を作ってくれるので、その楽譜に沿って足りない部分や追加したい部分を合わせながら話し合っていく。


この間出来上がったばかりの新曲。文化祭までに3曲はオリジナル曲を仕上げると言っていた。


それにしても、曲を一曲作れるってすごいことだなあ。私には絶対真似できない。



「夏休みも残り3日だなー」



ふう、と一息ついて。きゅーけいしよー、という寮の声にぐっと背伸びしながらカレンダーを覗き込んだ。

そうだね、と返事をしながらまた私は目の前の歌詞ノートに視線を落とす。


実は、新曲の1つの作詞担当を任されている。


怜も浩平も作曲勉強中で、私は楽器のことはよくわからないので作詞をしてみることになったのだ。


これが結構、難しい。


ポエミーでもあり、わかりやすくもあり、何故だか勇気づけられる、そんな歌詞にしてほしいと無茶な要望。

領に「物語を生み出すことと同じことだよ」、と言われたけれど、物語なんて生み出したことないんだからわかるはずがない。