あっと思ったときには、もう遅かった。
ルイナードはすでに顔を近づけてきて、覆い被さるようにして私の額へ優しくキスを落としたのだった。
一瞬だけ、ほんのかすに触れたくらいなのに、私は魔法にでもかかってしまったように動けなかった。
「気をつけて戻れ。ちゃんと見張りを付けておかないと、悪い男に食べられても文句言えない。短剣ももっていないようだし、隙だらけだ」
甘い声色と優しげな黄金色のお咎めに、混乱して手も足も出なくなる。
「今宵から食事を共にする。めかしこんでこい」
そうして口の端を吊り上げたルイナードは、ドレープの効いたマントを翻し私の来た方向へと去っていく。
後ろ姿が見えなくなったところで、そっと額を押さえた。
なんなの。ほんとうに⋯⋯。
『口説くこと――了承してもらう』
了承した覚えもないのに、いきなりおでこにキスなんて。
額に残る温かい唇の感触。声色も視線も、あの舞踏会の夜の――“仮面の彼”を蘇らせるから困る。
鼓動が破れそうなくらいドキドキしているのは。きっと、ルイナードの顔が綺麗すぎるからだ。
絶対に食事なんていかない。
めかしこんでこいなんて、偉そうにっ!
サリーに頼んで、食事の時間をずらしてもらおう。
きっと私の気持ちを誰よりもわかってくれるはずよ!
絶対の絶対に行かないんだから――!



