「――離れてよ! もとより、逃げるつもりなんてさらさら無いわ。監視なんて必要ないし、だいたいあんなやつが担当なんてゴメンよ!」
ドン、と胸に手をついて距離を取る。
ルイナードはそんなぷりぷり怒る私を見て、「なにが不服だ?」というふうに首を撚る。
「仕方ないだろう。一番腕がたつのはカルムだ。レイニーでも良かったが⋯⋯あまり城内で睦まじくされるのは腹が立つからな。甘やかして逃されたら困るし」
「そんなこと⋯⋯するわけないでしょ!」
腹が立つ意味がわからないし、兄さんは絶対に命令を無視したりしない。疑うような物言いに、ぐわーっと怒りがこみ上げる。
かと言ってこのままギャーギャー喚けば、カルム団長が駆けつけて刃を向けられるのも困る。
ぐるぐると葛藤の渦に飲まれていると、ルイナードから温かな眼差しを注がれていることに気づいた。
『お前は仕方ないな』
昔よくそう言っていた、そのときの顔だ。
なんでそんな顔をしているの⋯⋯?
サッと顔を背ける。
「――アイリス、どこへいく」
「⋯⋯部屋に戻るだけよ。⋯⋯陛下も、あぶらうってないで、早く公務にお戻り下さい」
「まて」
早口に告げて、彼の横を通りすぎようとしたそのとき。すれ違いざまに腕を掴まれた。
「なに――⋯」



