「――あまり深く考えるな」
その声にハッとして顔を上げると、襟元を整えた兄さんは、テーブルに掛けておいた大剣を腰元へ備え、出発の準備をしていた。
「まぁ、ここにいれば俺は安心だよ。優秀な医師もいるから、お腹の赤ちゃんも心配いらないし、サリーたちだっている。それに⋯⋯父さんだっているからな」
そこで慌てて、兄さんの腕に手をのばす。
「そうだ、お父さまのお墓は――」
「城の裏手、騎士団の訓練場の奥だよ。これまで戦死した騎士たちと共に眠ってる」
「⋯⋯なんで、そんなところに⋯⋯?」
穏やかだった心に、一陣の風が吹いた。
帝国のために命を捧げた騎士たちを奉るお墓は、とても神聖な場所とされている。
てっきり、敷地から外れた場所に追いやられているのかと思っていたのに。
「それは⋯⋯アイリスも本当はわかってるんじゃないのか? ――んじゃ、俺は行く。陛下と仲良くな」
理解不能と言った私に対し、その表情はとても穏やかだった。
わかってるなんて、そんなわけないじゃない⋯⋯。
兄さんは疑問をそのままに、一団と共に隣国である――ネスカ国へと向かってしまった。



