「そして――」と、続けざまにくるりと振り返ったサリーは、今度はカルム団長と対峙した。


「――カルム団長。状況は理解はしましたが⋯⋯アイリスさまはお妃さまになられる方です。対応には充分お気をつけ下さいませ。現在、身ごもっておられる、大切なお身体に負担をかけるような素行振る舞う場合は、す、ぐ、さ、ま、クロードさまにご報告させてもらいます」


途端に「――ゔっ」と顔を真っ青にするカルム団長。


どうやら元団長には頭が上がらない様子だ。彼のことを叩き起こしたのも、もしかしたらクロードさんなのかもしれない。

咄嗟にそう思った。


そして、みるみるうちに血の気を失ったカルム団長は、「――ということだ」ボソリと言い捨てて部屋から出ていってしまった。

音を立てて扉が閉まる。

偉そうな騎士団長にも弱点があると覚えておこう。

なにより、サリーはこの十年でさらに、逞しくなったということも⋯⋯。


「困った人ですが、悪い人ではありませんので安心して下さい。⋯⋯ルイナード陛下とクロードさまへの忠誠心が人並み以上というだけで」


後ろ姿を見送ったあと、サリーはそんなフォローを入れる。


――忠誠心。


ルイナードへ刃を向けたとき、彼が怒りを剥き出しにした理由は、それね。


サリーの顔には“だから嫌わないであげて”、と書いてあるのだが、それについては快諾しかねる私であった。