「さて――ルーシーのもとへ行きましょうか」
名残惜しさを残しながら立ち上がると、引き止めるように指先を掴まれた。
「アイリス⋯⋯その前に」
「なに?」
立ち上がった彼は、肩を抱き寄せて、黒髪をサラリと近づける。
「⋯⋯俺は、もう二人ほど世継ぎがいても構わないのだが」
魅惑的な甘いささやきを、耳に注ぎ込まれた。
ドキッと弾む胸を押し堪えて、ちらりと上目遣いで見上げると、ニヤニヤと私の事を翻弄しようとする意地悪な顔。
もうっ! またからかって! そう言いながらも昨日だって⋯⋯
艶やかな夜の姿を思い返し、赤くなりそうな頬を深呼吸で誤魔化す。
「⋯⋯ルイナードは、世継ぎが欲しいだけなのかしら?」
ちょっとだけ悔しくて、挑むように切り替えした。
いつだって翻弄されるのは私。たまにはルイナードのことを翻弄してみたい。
しかし、彼はすぐに柔らかな笑顔を浮かべてしまい
「そんなわけないだろう。お前との愛の証が欲しい」
今日も、いとも簡単に私をやっつけてしまう。
それも、頬へキスを落とすオマケつき。
「⋯⋯もう、いつも負けた気分になって悔しいわ」
「なぜだ?」
「私ばかりが、あなたをどんどん好きになっていくの」
いつも涼やかな美貌がこんなにも穏やかになるのは、私とルーシーの前だけなのを、知っている。
伝えられないほどに。もどかしいほどに。私の想いは、いまだに日々を駆け上がっていくの。
ぎゅーんと精いっぱい背伸びをして、彼の首元に腕を回して甘えてみる。



