「――――そして、綺麗だけど少し気の強い皇妃さまと、美しく一途な皇帝陛下は、末永く幸せに暮らしましたとさ。――めでたし、めでたし」
花壇で花の世話をする私の背後で、楽しそうな笑い声と、パチパチと拍手が聞こえてくる。
――って、誰が気の強い、皇妃さまよ。
心で悪態をつきながらも、微笑ましい姿に、自然と頬は緩まる。
「――――はぁー面白かった。赤ちゃん産まれたあと、どうなったんだろう」
「きっと、こんなふうに、幸せな生活を送っているのですよ」
「サリーの作るお話しは、いつも面白いなぁ。また読んでね?」
“また”? 不穏な約束が聞こえてきた私は、動かしていた手を止めてすかさず話をすり替える。
「ルーシーにも、ちゃんと素敵な王子さまが現れるから大丈夫よ。この前『うんめーのひと』に会ったんでしょう?」
花壇縁に座った小さな体が、お日様みたいな笑顔を浮かべる。
「うん。とーーってもキレーな男の子でね――」
――あの目まぐるしい式典から、五年。
ルイナードは、式典の日に生まれた私たちの宝物に、“ルーシー”という名前を授けた。聞くに、それは、遠い国で『光』を意味する言葉らしい。
肩で切りそろえた蜂蜜色髪。リボンのついたカチューシャをてっぺんに。煌めく黄金色には、大きな眼鏡が乗っている。グランティエ家の“秘密”は、未だに受け継がれている。
天気のいい今日は、花と触れ合う私の傍で、サリーに“お話し”を聞かせてもらうのだと意気込んでいたけれど。まさか、その“お話し”が、自身も共にしていただなんて、ルーシーは知る由もないだろう。