そんな兄さんの思惑にも気づいている。
年頃なのに恋人がいないうえ、さらに勝ち気な私の嫁ぎ先を、とても心配しているのだ。
「僕ほどの優良物件もいないと思うんだけど⋯⋯そんなにルイナードのことが忘れられない?」
会話は終わったものと車窓を見ながらぼんやりしていたところ、不意をつかれた。
今日のマーシーは、なぜだかご機嫌ななめだ。
「⋯⋯何が言いたいの? マーシー?」
あの男を――皇帝を気安くそう呼ぶ彼らも同様に気心の知れた幼馴染。月に一度、城へ報告へ行く彼マーシーは、未だに彼と友人関係にあるだろう。
しかし、お人好しなマーシーは普通であればその名前を持ち出すような真似はしない。
フツフツと全身の血流が早足になるのを感じた。
振り見ると、思ったよりも近くに真摯な瞳がそこにある。
「⋯⋯ルイナード、くるだろう? 僕は再会してほしくない。なんだか嫌な予感がするから」
嫌な予感――?
でも、再会なんてするはずがない。
だって、兄さんの話しだと――
「⋯⋯来ないわよ。⋯⋯あの男は」
そう言っていた。間違いない。
疑わしそうなマーシーを、見て見ぬ振りをして、瞼を閉じてシートへ身を押し付ける。もう、考えたくもない。



