そして、ひとつの磨かれた重圧な両扉の前で足を止めた。

それに習って重い足取りを止めると、気遣わしげな表情が、私を振り返る。


「お入りに⋯⋯“なれ”ますか?」


気遣いを受けながら、反射的にゴクリと空気が喉を通る。


4階の南側の最奥に位置する――執務室。

ちらりと十年前の惨劇が脳裏をかすめる。

染まる赤黒い深紅の絨毯。最後に見たお父さまの身体。私を絶望へ追いやろうとした彼の貪欲な視線。

でも、その一方で、私は、依然よりも自分が落ち着き払っていることにも気づいた。


――もう、私は大丈夫。


「⋯⋯中で、聞かせてちょうだい」

「承知しました」


クロードさんの後に続いて、そのままに中へと歩み進める。




十年ぶりの執務室は、雰囲気がガラリと変えていた。

入口から一番遠い窓横にプレジデントデスク。壁際に縦列する重そうな本棚。そして、対面式のロココ調のソファが中央のガラステーブルを挟んで重圧に配置されていた。

しかし、何より目を惹くのは、足元に敷かれるクラッシックブルーの絨毯。