息をするように甘い言葉をささやく彼は、社交界一のモテ男としても有名だ。
そしてここら一帯の領主でもあるにも関わらず、気さくで良心的。偉ぶらない態度は、城下街の民にも非常に人気が高く。身分を失った私たち兄妹にも、あたり前のように以前からの対等な関係を求めてくれる。
本当に、マーシーには救われている。
「しかし、驚いたな――。まさかアイリスが城へ行く気になるなんて」
馬車が走り出してしばらくたったころ。マーシーは心底意外そうに、不貞腐れる私を見下ろす。
「私だって行きたくないわよ。でも兄さんに行けって言われたんだから⋯⋯仕方ないじゃない」
「まぁ、ジャドレさんが亡くなってから、レイニーがアイリスの保護者だったからね。恩返し、恩返し」
長い付き合い彼は、我が家の情報を全て知り尽くしている。
彼と出会ったのは、多忙な父の影響で皇城に暮らしていた幼いころだ。
当時のドレイク伯爵と城に出入りすることが多かった彼が、ひとり遊びをする私に声をかけてくれたのがはじまり。



