「あれ? もう準備出来てる?」
姿見の前で仁王立ちしていると、聞き慣れた声がした。
声の方を振り向けば、人好きのする笑顔を浮かべた、すらりとした長身がドアに寄りかかっている。
「マーシー! 早かったのね」
彼は幼なじみのマーシー・ドレイク。
チョコレート色のくせ毛のウェーブと、人の良さが際だつキラキラした大きな瞳。二十七歳の割には、少年のような童顔で、年下にも見えるほど可愛らしい美男子だ。
数年前に父である故ドレイク伯爵から爵位を譲り受けた彼は、由緒正しい家柄の当主ともいえる。
長身で細見の身体を華やかな折柄のロングコートで包み、上質なジャボを揺らしながら、私の前にやってきた彼は、視線を奪うほどの華やかさがある。
「早めに来ちゃったけど、準備出来ていてよかった」
「兄さんが突然ごめんなさいね」
「いや、レイニーから言われなくとも、城まで送っていきたいと申し出るつもりだったよ。さぁ、外に馬車を待たせているから、いこう」
流れるような仕草で背中に手を添えると、ベッドに置いてあるバッグまで奪われてしまう。
「荷物くらい、自分で持つわよ」
「いいから。ドレスとっても似合ってるよ」
「⋯⋯別に、私相手に褒めなくていいのよ」
「本心だよ。城までデート、デート」
こっちの気も知らずに楽しそうなんだから。



