『アイリス⋯⋯っ、なにをしてるんだ!』
今でもはっきり覚えている。
あの日、騎士団の一員として駆けつけた兄さんは、痛いくらいの力で私を皇帝から引き剥がした。
『ルイナードが!! お父さまを殺したって!!』
『そんなわけあるか! 陛下を信じろ!』
兄さんの声が、静止にかかる騎士たちの声が、耳にこびりついて離れない。
『現場を見ていないだろう』『何を根拠にいっているんだ』と。
これまで最もわかり合える存在だと思っていたのに、胸がえぐり取られるような気持ちになった。
その間“あの男”は風景でも見るかのように、こちらを静視していた。
私にはそれが悔しくて仕方なかった。
皇帝――ルイナードを慕い傅(かしず)き、変わらぬ忠誠心を誓う兄さん。
一方、憎悪にまみれ、いまでも恨み続ける執念深い私。
これまで、兄さんが騎士であったことから、見解が違うことは仕方ないことだと割り切ってきた。
しかし、この境界線を守ってきた私たちだからこそ、今回の半ば強制にも思える兄さんのやり方に疑問を覚えずにはいられない。
もしかして、何か企んでいる――?



