昨夜の時点ではクロードさんは「帰還はまだ未定です」と言っていたはずだ。
現地とやりとりはだいたい電報、もしくは使者を通じて情報交換がなされていると、私は先日の授業で習った。
ネスカ国までは、馬をゆっくり走らせて約一日かからないほどの距離。よほど急を要することでなければ、いち団が向こうを経つ前にこちらに情報が寄越されるはずだ。
今回はルイナードが同行していたのだから、なおさらのこと。
きっと、なにがあったんだ⋯⋯。
無我夢中で前へ前へと足を動かしていた。
無性に焦る気持ちを留めて、踊り場の階段を下っているところで、悲鳴が耳に飛び込んできた。
「陛下、その傷はどうされたのですか!」
クロードさんの声だ。
声の主を探すように吹き抜けになっているそこから、身を乗り出す。
すると、豪勢なエントランスの隅っこに、軍服のルイナードまとわりつくクロードさんと、その横で険しい表情で報告を連ねるカルム団長の姿が見えた。
そして、声に促されて、微かに見えるルイナードの顔を注視した瞬間、サーッと青ざめた。
なんで⋯⋯っ!
「案ずるな、なんでもない」
「そんなわけございません! いきなり帰還したかと思えば、そのような傷を! デモはすんなり収まったと先日報告あったのは嘘だったのですか?」
「そんなわけなかろう。詳細はカルムから聞け。すべて知っている。俺は公務へ――」
会話を耳にしながら、足早に階段を降りていくと、会話がピタリと止み、全員の視線が私へと集まる。



