彼が出兵して、はじめてここを訪れたとき。
いつもより殺風景なお墓を前にした私は、数メートル手前から足が動かなくなった。
「父さんは、陛下が毎日来てくれて⋯⋯幸せだっただろうな」
桃色のグラジオラスをぼんやり見つめていると、心中を察したような兄さんの穏やかな声が耳に入る。
――“ひとりではなかった”
なんで気づかなかったんだろう。
だって⋯⋯
ここに供えてあった花の切り口の断面は、思わず笑ってしまいそうなほど不器用なもので。それも私の部屋に届くものと全くおんなじだ。
城にやってきた初日に、“抜け穴”の近くで彼と遭遇したのだって。もしかしたら、ここに来る途中だったのかもしれない。
この前の庭園での出来事も重なり、私の胸は、疑問から“期待”へと変化しようとしていた。
もうルイナードのことは、信じないと決めていたはずなのに。どうして、こうして私の心を掻き乱そうとするの。
あなたは、お父さまを、手に掛けたんじゃないの?
「⋯⋯わからないよ」
「ん?」
こぼれ落ちた本音を、兄さんが拾ってくれた。



