「アイリスさま!」


その日の昼過ぎ頃。慌てた様子で部屋にとびこんできたのはクロードさんだ。

隣で紅茶を淹れてくれていたサリーもピタリと動きを止めて、ふたりとも真剣な顔つきとなる。


「どうしたの? クロードさん」


手にしていたカップをゆっくりとソーサへ戻す。


「たった今から出兵することになりました。⋯⋯陛下も共に」

「え⋯⋯?」


一気にその場は緊張感に支配された。

平和なヴァルフィエ帝国では、“出兵”などという不穏な出来事は滅多にない。

クロードさんの話だと、昨夜遅くにネスカ在中の騎士から反皇帝組織によるデモが深刻化しているとの電報が入ったようだ。

橋の建設への妨害により、工事を請け負う職人たちとの間でトラブルが起きているらしく、応援をよこしてほしいとのこと。

そこで、ルイナードが自ら赴いて解決したいという姿勢を譲らず、さきほどの軍事会議にて、ほとんど強行突破のような形で彼の同行が決定したらしい。

本来であれば、そのような危険な場所へ行かせたくないようだが、カルム団長が兵を率いることでなんとか議会は承諾したようだ。


朝からカルム団長がいないことにも、これで納得がいった。

しかし、相手は国民とはいえ、“皇帝”のことを嫌悪している集団組織だ。


行けば、彼の登場をきっかけに、内乱に発展する可能性だって、なきにしもあらずで⋯⋯

もしかしたら、ルイナードが傷つく可能性だって⋯⋯