『なんでも⋯⋯ない。見るな』
『ルイナード⋯⋯泣かないで。だいすきよ』
小さな手が、俺の背中を優しく撫でる。
軟弱なのは、体だけではなく、心もなんだろうか。
彼女が愛おしくて。切なくて。苦しくて。涙が止まらない。
俺はとっても弱い。
皇帝一家のくせに不完全で。
力も身体も心さえも弱い。
でも叶うなら。俺は、アイリスと。
アイリスとなら――
『⋯⋯お前を、この帝国のお姫様にしてやる』
父さまの跡を継いで。俺がこの国を背負って立つとき。
誰よりも美しく、まっすぐで、芯の強い心をもったアイリスがいてくれるのであれば。
俺は――誰よりも強く。大きな志しをもった。皇帝になれるだろう。
『おひめさまにしてくれるの? うれしい』
帝国内でも公認の『小さな婚約者』が誕生したのは、このときからだっただろうか。
この日を境に、俺は少しだけ変わった。
騎士団の訓練に交わるようになったり、軟弱な身体を鍛えるようになったり。それから、アイリスに促されてマーシーとも友人関係を築くようになった。
三人で遊ぶことも増えたのはこの頃からだろう。
俺の生活の中心には、いつだって、ひまわりのような笑顔を浮かべるアイリスがいたんだ。