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アイリス=ロルシエという美しい少女を見かけたのは、俺が八歳の頃だった―――。
幼少期の俺は、とても病弱であったがため、大概の時間を私室のベッドの上で過ごすことが多く。いつものように、ベッドから窓の外を眺めていたんだ。
この日は確か、風邪をこじらせた三日目の午前中のことだっただろか――。
「⋯⋯あいつは誰だ?」
近くにいた近侍に問いかけると、視線の先を確認しに近づいてくる。
目が離せなかった。
花壇の隅っこ、背の高い草花に隠れるようにしてひとりの少女が泣いている。
ゆるやかなウェーブ効いた蜂蜜色の髪。頭のてっぺんには青いリボン。同色の上品なワンピースに身を包み。小さな膝を抱えて。必死に声をあげまいと顔をまっかにしていて。エメラルドの瞳からダイヤモンドのような涙をこぼしている。
その切なさに心が軋むと同時に、全てが持っていかれるような感覚に陥ったのを、幼いながらに感じていた。
「あぁ――、あの方がアイリスさまでございますよ、皇太子さま。この前ご説明しました、ジャドレさまのお嬢様であります」
近侍はどこか納得した様子で答えるなり「お母さまがまだ恋しいようですね⋯」と心配した様子を見せて、そのまま様子を見に部屋から出ていく。
最愛のロルシエ夫人を亡くしたジャドレは、三日前に幼いレイニーとアイリスを連れてこの城に移住してきた。ここに移れば、多忙な彼の代わりにいくらでも子供の“目”となる存在がいるだろうという、皇帝であった父上からの配慮だった。
アイリス=ロルシエという美しい少女を見かけたのは、俺が八歳の頃だった―――。
幼少期の俺は、とても病弱であったがため、大概の時間を私室のベッドの上で過ごすことが多く。いつものように、ベッドから窓の外を眺めていたんだ。
この日は確か、風邪をこじらせた三日目の午前中のことだっただろか――。
「⋯⋯あいつは誰だ?」
近くにいた近侍に問いかけると、視線の先を確認しに近づいてくる。
目が離せなかった。
花壇の隅っこ、背の高い草花に隠れるようにしてひとりの少女が泣いている。
ゆるやかなウェーブ効いた蜂蜜色の髪。頭のてっぺんには青いリボン。同色の上品なワンピースに身を包み。小さな膝を抱えて。必死に声をあげまいと顔をまっかにしていて。エメラルドの瞳からダイヤモンドのような涙をこぼしている。
その切なさに心が軋むと同時に、全てが持っていかれるような感覚に陥ったのを、幼いながらに感じていた。
「あぁ――、あの方がアイリスさまでございますよ、皇太子さま。この前ご説明しました、ジャドレさまのお嬢様であります」
近侍はどこか納得した様子で答えるなり「お母さまがまだ恋しいようですね⋯」と心配した様子を見せて、そのまま様子を見に部屋から出ていく。
最愛のロルシエ夫人を亡くしたジャドレは、三日前に幼いレイニーとアイリスを連れてこの城に移住してきた。ここに移れば、多忙な彼の代わりにいくらでも子供の“目”となる存在がいるだろうという、皇帝であった父上からの配慮だった。



