「⋯⋯泣くな。悪いことしている気分になるだろう」


ふたりの身体を引き起こして、そのまま大きな腕の中に私の体を閉じ込める。

息苦しくて頭がぼんやりしている私は、抵抗する気も起きずにそのままポスンと素直に収まった。


泣いている⋯⋯? 私が?


自ら頬に触れて確認する前に、溜まっていた雫が溢れ落ちる。同時に背中に逞しい腕がさらにキツく巻き付いて、顔はピタリとその胸に押し付けられてしまう。


泣いていた⋯⋯のね。


緩やかな抱擁の中でその理由を探るも、自分でもその理由が全く見当たらない。


「これはお前が悪い。マーシーと無防備に過ごしながらも、俺には刃を向けた⋯⋯お前が悪いんだ」


泣くほどキスが嫌だったと解釈したようで、彼は子供じみた言い訳を繰り返す。


わからない。なにもかもが、わからない。


「マーシーは関係ないでしょう⋯⋯殺す権利なんて言い出したのはあなたよ。なんでこんなことするのよ。最低よ⋯⋯」


そうだ、殺されるならまだしも、なんで、キスなの。力の入らない手でその胸を押し返した。回らない頭でも理不尽なことを言われていることはわかる。

なのに彼はちっとも腕を緩めてくれなくて、黙ったまま、ガサついた指先で私の髪をゆっくりと撫で付けていくだけだった。

ほんとうに、どうかしている。

お互いのことを憎しみ嫌い合っているはずなのに、この形が当たり前とでもいうように、ぴったりと心音が重なり合う距離にいて。矛盾を肯定するかのように、身を寄せ合っている。


ルイナードの考えていることが、全然わからないよ。