巧妙な人形のようにも見える、氷のような美貌。それがとても優しげに緩められるこの瞬間は、唯一私が特別だと感じられる時間だった。
悔しいくらいに私は、この笑顔が大好きだった。
またこの表情を⋯⋯こんなに近くから見ることになるとは思わなかった。
「どうした? アイリス」
ハッと意識を取り戻すと、ルイナードが本を差し出したままこちらを心配そうに覗き込んでいた。
「⋯⋯いいえ、問題ないわ」
もう、昔の彼はいないというのに、何を考えているのだろう。
自分自身を叱咤しながら、本を受け取って、その後、文字を追うことに意識を集中させた。
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半分ほど目を通したところで、パタンと本を閉じた。しばし目頭を抑えてから時計を確認すると、もう1時間ほど経過している。
書庫の中は天井からの日差しがあたたかで、とても気持ちがいい。思わず眠くなってしまいそう。
手にしていた本をそっとテーブルへ移動させて、ソファの柔らかな背もたれに体重を預ける。
ルイナードはまだ没頭しているのだろうか。
ちらりと隣へと視線をずらすと、本を手にしたままの頭が深く俯いている。



