「遅い、アイリス。早く来い」
ようやく選んだ2冊を手にして読書スペースに戻ると、ルイナードは待ちくたびれたように、本から顔を上げる。
「別に本くらいゆっくり選んでもいいでしょう。沢山読みたいものがあって、迷ってたのよ」
本当に自分勝手な人。
「何を持ってきたんだ?」
彼の座るソファを通り過ぎようとしたとき、艶のある黒髪が私の手にする本を興味深そうに覗き込もうとする。
そのうちの一冊を手渡し、対面のソファに彼の私物があることを確認した私は、仕方なくルイナードの隣に距離をおいて腰をおろした。
「夏期の植物図鑑と手入れ方法よ。体調が良くなったら庭師さんに頼んで、私も花の手入れを手伝わせてもらいたくて」
私の早口に耳を貸しながら、彼は受け取った本の中身をペラペラめくっていく。
「⋯⋯お前は、相変わらず花が好きだな」
本に目を落としながら、ふわりと優しげに微笑んだ。
途端にドクン⋯⋯と心臓が騒ぎ出す。
慌てて顔を背けた。
ルイナードが笑ってる。



