「――なにをしている、マーシー。いくら昔馴染みとはいえ、皇妃に手荒な真似をするのは見逃せない」
「ルイナード⋯⋯」
「婚姻が気に食わなくてここまで来たのだろう? だが諦めろ。この婚姻は、官僚たちからも認められたものだ。お前の動いたところで、どうにもならない。このままアイリスと共に『世継ぎ』を連れ去れば、お前は――大きな罪を犯すこととなる」
ギラリとナイフのように尖る声色。
しかし、次の瞬間ふたりの身体は鈍く音を立ててぶつかり合っていた。
「――っなんなんだよ⋯⋯その言い方っ――!」
マーシーがルイナードの胸ぐらに掴みかかっていた。
「ふざけるなよ。なんだよっ! 認めるとか、世継ぎとか。大事なのはそんなんじゃないだろ! ルイナードは本当に世継ぎのことしか考えていないのかよ!」
悲鳴をあげながら、ルイナードを揺らすマーシー。そんなふたりを見ていられず一歩踏み出したが、ルイナードに「来るな」と右手で制されてしまった。
彼はその手でそのまま、胸ぐらにある手に触れる。
「皇帝として周囲から子供を望まれるのは自然なことだ。マーシー⋯⋯お前は自分を見失いすぎだ。」
「子供がほしいだけなら、他をあたれよ⋯⋯。皇妃になりたい女なんてごまんといるだろう?! なんでアイリスなんだよ⋯⋯これ以上アイリスを傷つけるなよ!」



