「⋯⋯マーシー、離して」
「――離さない。子供に父親が必要なら僕がなるよ。例えルイナードとの子でも、アイリスとならその子を大切に育てていける。僕じゃだめなの?」
「そういう話しじゃなくて、落ち着いて」
そうして言い合いを重ねながじりじりと後退していくうちに、私の腰はぴたりと出窓へとくっついてしまった。
どうしよう、逃げ場がない。
「――悪いけど、帰らないなら連れていくから――」
「ちょっと! やめて! マーシー――!」
言い切った瞬間、彼は足元へ屈み込んで。そして私の体は一気にマスタードイエローのローブに包みこまれた。ふわりと地面から足が離れる。
やだ、どうしよう――
「なにをしている」
そのとき。地を這いつくばるような声が、ビリビリと部屋を貫く。
ピタッと、マーシーの動きは止まり。そのすきに私は彼の腕の中から逃げるように降りてすかさず移動した。
すぐさま声の方へ顔を向けると、漆黒の軍服に身を包んだルイナードが、入口からこちらへやってくるところだった。
その場が凍りつくほどの鋭利な眼光に。怒り心頭といったその様子。
なぜここに現れたのかという疑問の前に、私の体もブルリと震える。
そのまま歩みを進めたルイナードは、凍てつくような雰囲気を纏ったままに、私に背を向ける形でマーシーと対峙した。



