ルイナードと婚姻を結び、この城で彼の子供を産むことを選んだのは私だ。はじまりは皇帝命令だったけれども、短剣を受け取ったあの瞬間から、これは合意とみなされた婚姻である。
その決意をまっすぐ伝えたけれども、彼の表情はさらに険しくなる一方だ。
「――悪いけど僕は応援できない。僕はアイリスに幸せになって欲しいから。ルイナードがほしいのは世継ぎだけだろう?」
「それはお互い様よ。かと言って悲観するようなことはしたくない⋯⋯。私はこの生活の中で楽しみを見つけていくことにしたの。サリーだって、傍にいてくれるし――」
「――だめだ! 考え直した方がいい。僕と一緒に城下街に帰ろう。レイニーだって強がっていたけれど、それが一番安心するに決まっている」
あまりの真摯な態度に苦しくなってしまい、席を立ちあがる。
今のマーシーには何を言っても届かなそうだ。話していても埒が明かない。
「⋯⋯何度言われても、私の気持ちは変わらないわ。ここでルイナードとの取り引きを遂行するし。兄さんは、私が戻ることを望んでいないわ」
「話は終わりにしましょう」そうつけ足して、サリーを呼びに向かおうとしたとき、背後からバタバタと慌てたような靴音が近づいてくる。
「――それでも⋯⋯今のルイナードには君を渡せない。アイリスをここに置いては帰れないよ!」
後ろから伸ばされた手によって、強制的に向かい合わせられる。
焦燥感一色のマーシー。瞬時にして後ろめたさが心を埋め尽くすが――心を鬼にした。



