ルイナードの言葉を借りるのは癪だけど『もうひとりの身体ではない』というのに。
そっとお腹に触れる。
「――ハリス先生をよんでくる。今回のところは子供もお前も⋯⋯何事もなくて良かった」
――え?
ぶっきらぼうに言い捨てたカルム団長は素早く部屋を出ていく。
⋯⋯よかった? 心配してくれていたの?
扉を見つめたままパチクリとしていると、涙をふきながらサリーがくすくすと笑みをこぼした。
「ふふ。カルム団長もとても心配しておりましたよ。何度も私たちに、アイリス様とお子様のご容態を聞いておられました」
「⋯⋯そうだったの」
サリーのネタばらしに、思わず目を見張る。
忠誠心が凄まじいカルム団長のことだから、お腹の子供の心配をしてくれたのかもしれない。
そこで、さきほどの心配そうなルイナードの姿が蘇る。
『とにかくお前が無事で良かった。』
『体調が悪いときは無理をするな。今やひとりの身体ではない⋯⋯』
よく考えれば、ルイナードが心配していたのも、私ではなくお腹にいる“世継ぎ”のことよね。
危うく、優しさと混同してしまうところだった。



