「想像以上に綺麗だ、アイリス。思ったとおりお前には赤もよく似合う」
その途端、侍女たちから「まぁ」とうっとりとため息がもれる。
私の手の甲には、ルイナードの唇を押し当てられていた。
咄嗟に手を引こうとしたが、キュッと握られて身動きがとれずに焦る。
なにしてるのよ⋯⋯! 離しなさいよ!
しばし繰り返される無言の争いに、じわじわと顔が熱気に包まれていく。
最後に、ルイナードはニヤニヤしながらその手を自分の方へと引き寄せて、私の耳元に唇を寄せてきた。
「顔が赤いな」
「――っ、気のせいよ」
家臣たちの前だから、婚約者らしさのアピール? それとも懐柔作業の一貫?
本日二度目のキスに大パニックだ。
侍女や近侍のいる手前、さすがにドレスの下に忍ばせてきた短剣を振り回すこともできず。大人しくエスコートを受けるしかない。
しかし、そのときだった。
昨夜と同じように、グラリと脳が揺れる。
あれ⋯⋯?
意志とは相反して、椅子に座ろうとしていた足元がふらつき、一気に血の気が引いていく。
「⋯⋯アイリス⋯⋯?」
体が言うことを聞いてくれない。
力の入らなくなった身体は、膝から崩れるように床へと落ちていき、途中で力強い腕が抱きとめる。
あぁ⋯⋯だめだわ。
「おい、アイリス! アイリス!」
目の前が真っ暗になった私は、後悔の念に押しつぶされながら温かい腕の中で――意識を失った。
ここへ来る前に、なんで強がってしまったのだろう⋯⋯。
お腹の子を守れるのは、私だけだというのに。
―― アイリス! アイリス! ――



