「ルイナード陛下、アイリス様がご到着いたしました」
大きな二枚扉の前に到着すると、サリーが中へ声をかける。
確かここは、国賓などを招いたときに使用される厳かな食堂ホールだ。
慣れない場所に少しだけソワソワしていると、間もなく「入れ」と無愛想な返事がある。
それを合図に重い扉が開き、一歩前へ踏み出したところで一番遠い上座にルイナードの姿が見える。あれから議会続きだったのだろうか、皇帝衣装のままだ。
ふと視線が絡み合った瞬間、食前酒を傾けていた手が止まり黄金色が見開いた。なんだか驚いてるようだ。
私は構わず上座の方へ身体を向けて――
「お待たせして、申し訳ありませんでした、へーか」
サリーにしつこく叩き込まれたセリフを棒読みしドレスをつまんで華麗にお辞儀をする。
背後でカルム団長に睨まれたような気がするけれど、口に出来ただけでも褒めてほしいものだ。
「遅いからどれだけめかしこんでいるのかと思えば⋯⋯」
挨拶も聞かずにグラスをおいたルイナードはまっすぐこちらにやってきた。
まるで眼差しにレールがあるかのように私だけを見つめて。
みんなの意識が集るなか、大きな軍事ブーツを私の前でピタリと止めて、流れるような仕草で私の手をすくいあげた。



