事の発端は、そう。三日前のことだった――


「え? ⋯⋯舞踏会に行けなくなったーー?!」


仕事から帰った兄さんと、いつものように城下街の自宅で夕食を食べていたこの夜。

けれど私は、手にしていたスプーンをシチューにボトンっと落っことすくらいの衝撃を受けていた。


「あぁ。舞踏会の夜は、騎士団で見巡りをして安全を促しているんだろ。今回は、そっちにいかなければならなくてなぁ⋯⋯」

「――――」

「だからアイリス、代わりに舞踏会にいってきて欲しい」


まさに、あ然だ。

一口にそう言ったのは兄さん――五つ上で二十九歳の兄。レイニー=ロルシエ。中性的で細見の兄さんだけど、これでも皇帝陛下直属の帝国騎士団に努めている。

柔和な雰囲気で、周囲からはどこの国の王子様?と言われるくらいカッコよくて優しいんだけど。


――今は全然優しくない!


黒地に金縁の招待状が、テーブルの上を滑って、私の前にやってきた。

そこに大きく書き出されているのは、3日後に迫った舞踏会のスローガン。『今宵は無礼講』という見出し。


いやいや。

いって来てほしいって⋯⋯!