「ほっとけ!」
 教室の後ろドアで待ち伏せしてやったおれに木村の第一声。
 おはようくらい言えねえのか。
 …って、まあ、おれもそんな心境じゃない。
「今だけしのげれば、いいのかよ」
 ぴくっと震えた背中が痛ましい。
 だめなのは木村もわかっている。
 それなのに、やらなきゃならねえんだな。
 そんなに大事か。
 親との戦いに、たかが一度、勝つことが。
 なんだってそこまで追いつめられちまったんだ、おまえ。


 2時限め、5教科めの政経で木村はこときれた。
 おれにバレていると知りながらカンニングを続けられるほど、悪いやつじゃないんだ、仕方ない。
 机の脚が床をこする音に、ちらっと振り向いて見た木村は机につっぷしていた。
 木村を追いつめたやつより、同じフィールドで、同じユニフォームを着て、木村に蹴りをくわらせたおれのほうが性質(たち)が悪い。
 わかった。
 おれも捨てる。
 三者面談のあとのうちの鬼ババァの報復は、せいぜい小遣いカットだ。
 死にたくなるようなものじゃない。